2012年1月12日木曜日

モバイルIT業界の年をドコモ社長が語る

最近スマホに変えたのですが、月額の利用料金の高さに驚きました。製品によってかもしれませんが、常時ネットに接続されている状態になっているようで、バッテリーの切れる早さも目立ちます。今特に普通の携帯で不自由していない人は、購入はもう少し新製品が開発されてからの方がいいかもしれません。

新春インタビュー:2011年は、モバイルIT業界にとっても激動の年となった。
2008年の「iPhone日本上陸」から始まった国内スマートフォン市場の拡大は本格的な普及期へと突入し、2011年は"スマートフォン普及元年"とでもいうべき状況になった。各キャリアが投入する新製品の半分近くがスマートフォンになり、しかもモバイルIT業界のトレンドは「スマートフォンを中心に回る」ようになったことは記憶に新しい。
モバイルIT業界の裾野が拡大しはじめたのも、2011年の特長だった。従来のBtoB市場だけでなく、BtoBtoC市場でタブレット端末や通信モジュールの活用が進み、通信キャリア自身が電子書籍や電子教科書、自転車シェアリング、放送事業に参入するといった動きも顕著になってきた。モバイルITの技術・サービスを活用した周辺領域のビジネスも広がりつつある。
そして、年が明けて2012年。
モバイルIT市場全体の成長と発展はどのようになるのか。また、今年の注目市場やビジネスはどのようなものか。新春特別インタビューとして、NTTドコモ 代表取締役副社長の辻村清行氏に話を聞いた。
本格普及期の到来により、サポート体制の重要性が増す
まずは昨年を振り返って、2011年をどのように評価されているか。この点をお聞かせください。
辻村清行氏一言で言えば、「スマートフォン時代が本格的に始まった」ということになるのだろうと思います。ドコモの近況でも、2011年度はスマートフォンの販売台数を850万台と計画しています。これは年間2000万台強の(ドコモの)総販売台数のうちの850万台ですので、スマートフォンの販売比率は約4割強になっている計算です。
販売現場でも、昨年はスマートフォンの勢いが顕著でした。
辻村氏ええ。ドコモショップを見ても、ほとんどの人が「スマートフォンはありますか?」と買いに来ていただいています。なかにはスマートフォンという言葉をご存じないのに、手でジェスチャーをして「こういうの(タッチパネルで操作するスマートフォン)をください」と買って行かれる人もいます。
PCを持たず、スマートフォンのことに詳しくない人までスマートフォンを買い始めましたね。
辻村氏そういう意味でも、2011年はスマートフォンの本格普及が始まったのだと思います。
でスマートフォンは主に都市部の家電量販店を主軸に売れていて、ユーザーもある程度のリテラシーを持った方が中心でした。しかし最近は、ドコモショップでもスマートフォンへの移行の動きが現れているのでしょうか。
辻村氏はい。確実に出てきています。我々が想定していた以上のペースで、スマートフォン化が進んでいます。
しかし、このスマートフォン化の流れで課題も見えてきています。その筆頭になるのが、“ドコモショップでの接客時間が長くなっている”ということですね。フィーチャーフォンの場合にはお客様がすでに使い勝手に慣れていらっしゃいますが、フィーチャーフォンからスマートフォンへの買い換えでは使い勝手がまったく違います。ですから、初めてスマートフォンを購入するお客様には初期セットアップといった作業をお手伝いさせていただかなければなりません。結果として、接客時間が長くなっており、お客様をお待たせしてしまっています。
購入時および購入直後のサポート問題は、2011年に顕在化した大きな課題ですね。特にドコモショップなどキャリアショップでは、初心者に対するサポートが重要になっています。手厚いサポートでお客様に安心していただきつつ、待ち時間を減らすという難しいオペレーションが求められます。
辻村氏ドコモショップの業務フローを改善する取り組みはすでに始めています。ここでの基本的な考え方としては、顧客管理システムを用いる(新規契約や端末の買い換えなど)「契約手続き」の部分と、スマートフォンの初期セットアップやアプリの導入支援といった「初期利用サポート」の部分を切り分けていくというものです。全体的な業務改善を行い、しっかりとしたサポート体制を構築しながら、お客様をできるだけお待たせしないお店(ドコモショップ)作りをしていきます。
ドコモショップなどキャリアショップの体制強化は、今年はさらに重要になりますね。私は2012年はキャリアの総合力が問われる年だと考えているのですが、その中でも、幅広いお客様の「スマートフォンシフト」に対応するためのキャリアショップ強化はとても重要なポイントです。
辻村氏2011年度の段階だけでも約4割のお客様がスマートフォンを購入されるわけですから、(キャリアショップの)サポート力が重要になるのは間違いありません。すでにスマートフォンの知識がほとんどない人までスマートフォンをご購入いただくようになっていますので、そういったお客様をきちんとケアするのは重要な課題です。
au/ソフトバンクのiPhone 4SにXiで対抗する
直近では2012年春商戦が始まるわけですが、ここの展望についてもお聞かせください。
辻村氏すでに発表済みの冬春商戦ラインアップは全体の半分以上がスマートフォンになっているわけですけれども、この中の4機種がXi対応です。春商戦では、このXiを強く訴求していきます。
冬春商戦ラインアップでは3GのFOMAのみに対応したWithシリーズが用意されています。当初はこのWithシリーズがボリュームを狙う一般市場向けであり、Xiは一部のハイエンド層向けかと見ていたのですが、そうではない、と。
辻村氏(2011年度の末となる)今度の春商戦で、スマートフォンの販売台数は累計で1000万台を超えます。約6000万人いるドコモユーザー全体の約6分の1がスマートフォンに移行するわけです。その点では、エントリー層向けのWithシリーズは重要です。
しかし、その一方で、この冬商戦でXi対応スマートフォンを販売してみて、非常によい手応えを感じました。私自身、すでにXi対応スマートフォンを使っていますが、その感覚は固定通信でADSLからFTTHに移行したくらい快適なのです。Xiが持つこの快適さは、ドコモの大きな競争優位性になると考えています。
モバイルIT業界にとって、春商戦は多くの契約者が動く大商戦期。ここでドコモの競争優位性を最大化するためにも、“Xiに軸足を置く”わけですね。
辻村氏我々にとって目下のライバルは、(KDDIとソフトバンクモバイルが販売する)Appleの「iPhone 4S」です。iPhoneはとてもブランド力が強く、それに対抗していかなければなりません。この対iPhone 4Sで考えた時の我々の強い競争力になるのが、Xiということになるでしょう。
なるほど。私自身、iPhone 4SとXi対応のAndroidスマートフォンの両方を使っていますが、スマートフォンの素地としてはiPhoneが優れている一方で、インフラ部分の性能や競争力ではXiがずば抜けていると評価しています。キャリア間の競争という観点では、ドコモがXi対応機の訴求を強化するのは正しい戦略と言えますね。
さらに加速するスマホ普及2012年度はタブレットにも注力
2012年度のドコモのプロダクト戦略は、どのような方向になるのでしょうか。
辻村氏まだ計画中なので具体的なことはお話しできませんが、まずスマートフォンの総販売数が1000万台強になると考えています。これはドコモの年間総販売台数である約2000万台の半分以上がスマートフォンになる、という計算です。
では、この1000万台強の内容はどうなるのか。その部分では、従来よりもさらにスマートフォンユーザーの裾野が拡大する、という点に注目しています。先ほどの議論にも出ましたが、低リテラシー層がスマートフォンに移行するということを重視していかなければなりません。
これまでケータイしか使っていなかった人たち向けの、エントリーモデルのラインアップが重要になりますね。
辻村氏ええ。その部分はサービスも含めて強化します。その一方で、先進性を求めるハイエンドユーザー向けのラインアップでも競争力を高めなければなりません。ここではXi対応や、2012年4月にスタートするmmbi対応が1つの軸になるでしょう。
私はXiに関して、スマートフォンの価値を底上げするものと評価しています。そう考えますと、ハイエンド層だけでなく一般層向けのスマートフォンでもXi対応を積極的に進めるという戦略もあると思うのですが、いかがでしょうか。
辻村氏Xiの競争力が高いのは確かですが、ラインアップ内での対応機種拡大は、サービスエリアの拡大とのバランスも考えていく必要があります。Xiエリアは2011年度末時点で人口カバー率25%程度ですが、我々としては2014年度中にこれを98%まで引き上げる計画です。2012年度はちょうどエリア拡大期のさなかになりますので、エリアのカバレッジは50%前後になるでしょう。
WithシリーズのXi対応はいつ頃になるのでしょうか。
辻村氏まだ決めていません。ただ2012年度で言えるのは、Xi対応はNEXTシリーズ中心で訴求することになると思います。
Xiと並んでハイエンド向けの機能として挙げられていたmmbiですが、こちらの対応機はどの程度まで増えるのでしょうか。
辻村氏当初は2機種から初めて、2012年度の上期に5機種まで増やします。サービス開始初期は端末側にmmbi対応のコストがかかりますし、全国エリアの完成にも若干時間がかかります。ですから、ハイエンドモデルの一部から対応させていきますが、いずれは(mmbiは)ワンセグのような標準的な機能になっていくと考えています。ただ、そういった標準機能化までには段階を踏んでいく必要がありますね。
スマートフォンは引き続き伸びていくわけですが、タブレット市場についてはどのようにご覧になっていますか。
辻村氏タブレットはとてもポテンシャルのあるジャンルだと見ています。しかもXiとの相性がとてもよい。それはなぜかといいますと、タブレットのスクリーンサイズで大容量コンテンツやWebを使うということになれば、Xiインフラの(高速・大容量通信という)強みが生きるわけですね。また大画面ならではのUIが作れますので、現在開発中の「通訳電話」などとの相性もいい。
その上で直近の動きをお話ししますと、タブレットはまず法人市場から立ち上がっていくと考えています。一方で、コンシューマー市場では“ファミリーユース”の部分に最初の可能性があるでしょう。
タブレットはギーク層が飛びついている印象がありますが、実際の利用で見ますと、おっしゃるとおりファミリー層に可能性がありますね。特に日常的にPCを使わない層の方が、タブレットの本質的な価値をきちんと見いだして、ライフスタイルの中で使いこなしています。
辻村氏主婦や子供といった層は可能性を特に感じる部分ですね。我々の調査でも、そういった人たちの方がタブレットをうまく活用していただけるという声を多く聞いています。私はそこに大きな可能性を感じています。
現時点では、タブレット需要の立ち上がりは我々の想定よりも低いです。しかし、潜在的な可能性という点では、かなり大きなものがあると考えています。
私もタブレットにはポテンシャルを感じています。特にPCを日常的に利用する生活習慣を持っていない一般ユーザー層向けに、タブレットは“インターネットとデジタルコンテンツのカジュアルユース”の新たな利用スタイルと市場を切り拓く可能性が高い。ここが今後のビジネスにおいても重要なわけです。
しかし、その一方で、現在のタブレット市場には不足感も感じています。
1つはタブレット市場において、“iPad以外のヒットモデルが出てこない”こと。Androidタブレットの数は増えましたが、iPadのような成功を収めるモデルはいまだ出ていません。
そして、もう1つは“Androidタブレット向けに最適化されたアプリ”が乏しいこと。iPadは専用アプリがとても魅力的な世界を構築していますが、Androidタブレット向けに最適化された専用アプリはとても少なく、アプリストアも使いにくいのが実情です。
辻村氏まずラインアップという点では、現在スマートフォンを作っているメーカーにタブレットの開発を依頼し、前向きになっていただいています。ここではスクリーンサイズのバリエーションも重視していまして、5インチ・7インチ・10インチのそれぞれの市場を考えています。特に5インチと7インチにも、それなりの需要があると見ています。
10インチクラスのタブレット市場の可能性はiPadが牽引する形で顕在化していますが、5インチと7インチはこれからの市場です。しかし、Appleが手がけなかっただけで、このクラスにも10インチとは異なる市場や需要がありそうです。2012年はタブレット市場の多様化にも注目したいですね。
辻村氏Androidタブレット向けアプリの品ぞろえについては、我々も大きな課題と認識しています。ここは「鶏と卵のジレンマ」があります。今はまだ圧倒的にスマートフォンの方が数が多いですが、タブレット市場はホームユースを筆頭に今後成長していきますので、専用アプリも増えてくるでしょう。
また、Androidタブレット向けアプリの拡充については、コンテンツプロバイダーの自発的な開発を待つだけではありません。ドコモとしても積極的にコンテンツプロバイダーへの開発要請や、アプリ環境整備の推進をしていきます。
あとは鶏卵のジレンマをいかに打ち破るか、ですね。
辻村氏その点では手応えも感じています。ドコモショップにヒアリングをしていますと、「お客様にしっかりとタブレットを勧めると買っていただける」という声を聞きます。販売の部分で工夫していけば、タブレットの普及はできるでしょう。
これはAndroidタブレットに限りませんが、タブレットはスマートフォン以上に“コンサルティングセールス”の商材ですね。お客様のニーズやライフスタイルを聞いて、そこからタブレットの価値を伝えていく。販売現場のスキルが、普及を大きく左右する分野と言えます。
辻村氏そのとおりですね。特にファミリー層向けには、販売スタッフが使い方やお勧めのアプリなどについてきちんと伝える、といったことが大切ですね。
重要なのは“一般層向けのカスタマイゼーション”
今後のスマートデバイスのプラットフォームについてなのですが、ドコモは現在、主力のプラットフォームがAndroidに偏重しています。一方で、ライバルのKDDIは昨年iPhone 4SやWindows Phone IS12Tを導入して、Androidだけでなく、iOSとWindows Phoneのマルチプラットフォーム化が実現しています。またソフトバンクモバイルは実質的にはiPhone偏重ですが、プラットフォームで見れば、iOSとAndroidを擁しているわけです。
ドコモだけがAndroidにかなり偏ったプラットフォーム戦略を取っているわけですが、この点は2012年度に変わっていくのでしょうか。
辻村氏私どもの基本的な考え方は、「お客様が使いやすいカスタマイゼーションがいかにできるか」という部分にあります。今のスマートフォンの売れ行きを見ていても、日本市場に最適化された“全部入り”は強い。おサイフケータイや赤外線通信、ワンセグといった(日本市場のニーズの)部分は大多数のお客様に求められているのです。
ですから、そういった日本市場向けの最適化がしっかりとできるのであれば、iOSやWindows Phoneを我々が拒否するところではない。そう考えています。
これまでケータイを使っていたような、日本の“普通のお客様が困らないこと”が大切なわけですね。すべては無理でも、日本市場をどれだけ尊重できるかが求められる、と。
辻村氏可能性でいえば、Windows Phoneの方が自由度が高く、そういったこと(日本市場への最適化)が早く起こると予測しています。逆にAppleのiOSでは、おサイフケータイ用のモバイルFeliCaチップを搭載したり、我々のエリアメールに対応させたりというのが難しいと思いますので。
Appleの姿勢では、ハードウェアレベルのローカライズは難しいでしょうね。
辻村氏ええ。ですから、まずはマイクロソフトと協議して、ドコモのお客様に満足していただける範囲でカスタマイズができるということであれば、Windows Phoneの導入は進めていきたいと思っています。
AppleのiOSも独自に緊急地震速報に対応したりと、日本市場のニーズに“ソフトウェアで応えられる範囲で応える”という形で配慮しています。しかし、このローカライズがもう一歩踏み込んだ形で行われないと、ドコモとしては受け入れられませんか。
辻村氏そうですね。以前から弊社の山田(隆持代表取締役社長)が申しているとおり、iPhoneやiPadはとても魅力的なデザインやUIを持っており、とても興味は持っています。しかし、日本向けのカスタマイズができないとなると、どうしても“品ぞろえの1つ”としてしか扱えないとも考えています。
ドコモの顧客基盤の厚さや裾野の広さを鑑みれば、ソフトバンクモバイルのような「販売の大半がiPhone/iPad」という状況は難しいわけですね。カスタマイゼーションができない状態では、主力のプラットフォームとしては扱いにくい、と。
辻村氏ええ。iPhoneとiPadをドコモが軽視しているわけではありません。興味はあります。ですが、今の状況では(取り扱う)予定はありません。
となると、Androidと並ぶドコモの主力プラットフォーム候補としては、先にマイクロソフトのWindows Phoneがくるわけですね。ここはWindows 8での展開が予定されているタブレットも同じくですか。
辻村氏そうです。特に法人市場ではWindowsベースのタブレットに対する期待は大きいので、積極的に取り組んでいきます。