2011年10月24日月曜日

空気清浄機は本当に有効? 大学教授らが性能評価標準化を提案

正直どれくらいの効果が出ているのかということは、普段の普通の生活の中で実感することは難しいと思います。それらを明確にするために、大学と連携した実験をすることは素晴らしいですね。

2011年10月18日、室内空気向上委員会主催のセミナー「今の空気清浄機は、本当に空気を清浄にしているか?」が開催された。
同委員会は2011年に発足。発起人は東京大学大学院 新領域創成化学研究科 環境システム学特任教授 柳沢幸雄氏、日本大学 理工学部建築学科教授 池田耕一氏、宇都宮大学大学院 客員教授 埋橋英夫氏、北里環境科学センター顧問 奥田舜治氏。
発足の背景には新型インフルエンザや花粉症、ペット飼育率の上昇で消費者の「空気」に対する意識が高まっていること、これに伴い現在の日本の空気清浄機市場には、多数の機種・機能の空気清浄機があふれていることがある。
「一方で、性能に関する共通の評価基準はなく、各社が独自の評価基準に基づいたデータを発表している状況。つまり消費者が適切に商品を選ぶことができる情報が不十分で、実際に消費者からの相談も増えた。同時にメーカーからも相談を受けることも増えている」と語るのは奥田氏。この状況を解消し、それぞれの生活にあった商品選び、ひいてはそれぞれが快適な室内空気を手に入れられるよう、空気清浄機や室内空気に関する信頼性のある情報を発信し、意見交換の場を設けていくという。
委員会がまず打ち出すのが、セミナータイトルでもある「今の空気清浄機は、本当に空気を清浄にしているか?」ということだ。
性能に関する共通の評価基準はない
1980年代以降顕在化したシックハウス(室内空気汚染)問題を例に挙げてみよう。室内空気中に存在する化学物質は全て多かれ少なかれヒトに何らかの影響を及ぼす可能性がある。そのため厚生労働省は揮発性有機化合物(VOC)の指針値等を定めるなどの対策をとってきた(参考文献:厚生労働省「生活環境におけるシックハウス対策のページ」「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」)。しかし、柳沢教授の話によれば、厚生労働省が「指針値(室内濃度指針値)」を定めているのは、VOCの中の一部の物質にとどまっているという(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス、フタル酸ジ-n-ブチル、テトラデカン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ダイアジノン、アセトアルデヒド、フェノブカルブ)。それ以外の揮発性有機化合物に関しては「総揮発性有機化合物量(TVOC)」として総量で指針値が出されている。
となると、例えば接着剤、塗料、防腐剤などの成分として知られるホルムアルデヒドは、WHOや厚生労働省により0.08ppmと指針値が出されている。ホルムアルデヒドを含まない接着剤や塗料、防腐剤では、この成分の代替になるVOCが使われる可能性も出てくる。同様に、指針値が設けられているがために使用を避けたVOCの代替品が、結果的に新たなVOCとして室内空気汚染につながらないとは言えない。
「代替されたVOCへの指針値がない限り、新築で最新鋭の技術を使った建造物でVOCにどれほど気を配り、建材自体を見直したとしても、現状では建築直後には指針値を超えてしまうケースもある。その対策で最も有効なのは、実は“換気“。しかし現在、“換気”についての不安や、外気汚染を気にする声も挙がっている」(柳沢教授)。
そこで重要になってくるのが空気清浄機の役割だ。ところがダイキンなら高速ストリーマ、三菱電機なら除菌HEPAフィルター、シャープならプラズマクラスター、パナソニックならナノイー、日立ならアレルオフイオンなど、各メーカーごとに特徴はあるが、先述の通り性能に関する共通の評価基準はない。
活性炭やイオンなどは微生物汚染には無用!?
池田教授もこの点に疑問を投げかける。
「空気清浄機は通常、機体内のモーターでファンを回して空気を吸い込み、その空気をフィルターでろ過して汚れを除去するフィルター捕獲型のものが一般的」(池田教授)。これは集じん力があり、フィルター性能によっては除去率は99%以上となり、ウイルスやカビ、花粉なども除去できると言われる。一般的に風量(空気供給量)が大きく、空気を清浄にするスピードは速いという。世界的にも一般的な方式だ。しかしそれ以外に空気清浄機に備わっているとされる機能について「活性炭を通す、イオン、オゾンを出す、ニオイが分解されるなどさまざまなものがあるが、これらは何が作用して空気の清浄に効果を上げるのか分かりにくい。例えば水中にあるインクをザルですくうのが難しいように、空気中に存在する化学物質や粉塵を除去することは難しいと考えられる。ましてや空気中に存在するウイルスを殺したとして、その残骸はどう処理するのかなどが不明な点もある。高濃度のイオンが目的物に命中すれば、殺菌は可能かもしれないが、微生物が殺せるものは、人間に害がないとは言い切れないのではないか」(池田教授)と話す。それならば、フィルター捕獲型の方が、有効性が明らかだという。
特に真菌、最近、ダニ、ウイルス、花粉といったものが挙げられる微生物汚染については「空気中に浮遊するから人体に入り込み影響を与えるのであり、粒子が大きければ空気中から落ちる速度が上がり、下に落ちれば空気中に存在しないのだから、人体に吸い込む確立が下がる。また、大きな粒子になれば、粘膜にとどまるのでうがい等で取り除くことができ、肺まで入り込まない」(池田教授)。そしてこうした微生物汚染に関してはろ過が効果的となる。
ちなみにカビやウイルスに関して言えば、カビは高湿度であるほどに増殖するが、ウイルスについては、例えばインフルエンザウイルスの場合、高湿度により死滅する確立が上がる。よって「湿度は40%以上70%以下でコントロール」(池田教授)した上で、空気清浄機を使用すると効果が高まると言えるようだ。さらにダニアレルゲンなら、刺すタイプの「ツメダニ」ではなくぜんそくや鼻炎の原因になる「ヒョウヒダニ(チリダニ)」が問題となるが、チリダニの死骸は特に粉塵の一種なので、これも空気清浄機が有効。花粉については微生物汚染の中では一番大きな粒子なので、さらに除去がしやすい。
放射性物質対策に関して、有効と考えるかどうか
また放射性粉塵の除去に関しても「大きな問題となるのが内部被爆であり、内部被爆をしないようにするためには、空気中に浮遊する粉塵を取り除くことが有効だ。そのために空気清浄機のろ過は有効だと考えられる」というのが池田教授の意見だ。
「結論としては、建築環境においては、すべての微生物を排除することは不可能であり、その必要もない。重要なのは、室内環境を適切に管理し、微生物の増殖できる環境を作らないこと。そして、良い室内空気環境を実現するためには、特別なことをせず、自然の外気をそのまま室内にできるだけ多く供給すること。何も足さない、何も引かないが最高の品質であり、外気が汚染されている時には空気清浄機により余計に吹かされた汚染質を処理し、室内を換気することが有効」(池田教授)だという。
「室内環境学会標準法」を定める
以上のことからは空気清浄機の役割の高さが主張されているようにも感じるのだが、池田教授はまたこうも話す。
「問題は空気清浄機というネーミングそのものが、あまりにネーミングが良すぎることだと個人的には感じている。いかにも空気そのものがきれいになるように感じてしまう。しかし本来は、粉塵ろ過機というくらいが、正しい理解を得られるネーミング」。そう理解されていれば、正しく利用され、過度な期待を寄せられることもなくなりそうだ。
柳澤教授は個人が生活に適合した空気清浄機を入手するためには規制と誘導が必須と話す。「規制は早急に必要だが、行政が迅速な対応をすることは困難。それよりは消費者の選択による誘導が有効。つまり複数の商品やサービスの相互比較に基づいた選択を行うことにより、室内環境にとってより望ましい商品やサービスの開発が進むと考えている。ただそのためには、消費者に同じ検査法でデータを取った比較可能なデータを提供することが重要になる」。
これに一つの標準値を示すため室内環境学会により「室内環境学会標準法」を定めるのだという。室内環境学会は、国立環境研究所の小野雅司氏を会長とする組織で、柳沢教授も商標管理委員会委員長を務めている。法人会員にはクリニックから住宅メーカー、家電メーカーまでさまざまな会社が名を連ねる。簡単に言えば、この室内環境学会が定める標準法に則った検査を通過したデータに関しては、すでに商標登録も済ませてある「室内環境学会標準法準拠」の認定をするということになる。
標準法の運用に関しては、検査ができるだけの技術のある組織の募集・編成等課題がありそうだが、米国家庭用電化製品工業会(AHAM)が認証する空気清浄機がキレイな空気を供給する能力を表す指標「CADR(Clean Air Delivery Rate)」のように、確たる評価基準として定着すれば、消費者にとってメリットはありそうだ。