家電の消費量としても躍進を続ける韓国メーカーは、近未来的な外観の製品を作ることに最近は力を入れているようです。有名なデザイナーなどもそのプロジェクトに加わり、一歩二歩先を行く未来をテーマにして奇抜なデザインを生み出しています。見た目の面で秀でていた日本でしたが、果たしてこれからの数年でどれだけその差が縮まるのかということは世界の消費者が注目していることでしょう。
AV(音響・映像)製品や白物家電で世界を席巻する韓国サムスン電子とLG電子。その大きな原動力となっているのが商品の「デザイン」だ。韓国勢はデザイナー自身が経営に参画する例も多く、デザインが開発の一部門にとどまっている日本メーカーは後塵(こうじん)を拝している。技術力では遜色ない日本勢にとって、デザイン力の向上が大きな経営課題に浮上している。
3年前の夏、ソニーの製品デザイナーたちが欧州や中東の各国へ散らばった。新しい薄型テレビのデザインのヒントを探るためだ。その後、あるデザイナーが持ち帰ったのは「1枚の板」という考え方だった。「これぞソニーデザイン」。デザイン部門の責任者だった同社クリエイティブセンターの松岡文弥ディレクターはそう直感した。
ソニーが2010年の春モデルから採用した「モノリシック(=1枚の板)デザイン」は、アルミ製の台座に板状のディスプレーを斜めに傾けて配したシンプルなもの。「電源を消しているときでもインテリアの一部として部屋に溶け込む」(同社)のが売りだ。このデザインは急成長中のインドでヒット。これを追い風にソニーは現地の薄型テレビ市場で昨年度、サムスンなどを抑えて販売額で首位となった。
誰にでも使いやすい-。03年ごろからこうした「ユニバーサルデザイン(UD)」を全社の戦略として推進してきたパナソニック。その“代表作”は、誰もが楽な姿勢で洗濯物を出し入れできる「ななめドラム洗濯乾燥機」だが、09年の欧州での白物家電参入の際にはさらに工夫を凝らした。「欧州の人は『シンプル』かつ『機能美』を好む」(同社)。このため日本国内などでヒットした斜めの形状ではなく、洗面カウンターにすっぽり収まる完全な箱形のものを開発。一方で内部のドラム部分はUDの思想を変えずに斜めにした。これが奏功し、10年度の欧州の洗濯機販売額は前年度比2.5倍に拡大した。
富士通は09年からIT機器のデザイン向上を狙いに国際コンペを開いている。パソコンのデザインを競った今年も各国から1000点以上の応募があり、優秀作品の一部を富士通製品に反映させる考えだ。
だが、こうした例は決して多くはない。「ここ数年で韓国勢とのデザイン力の差は大きく開いた。日本勢はそれを後追いするだけで手いっぱいだ」(業界関係者)との指摘もある。
「次世代中核戦略はデザイン」。05年4月、イタリア・ミラノ。サムスンの李健煕(イ・ゴンヒ)会長は戦略会議で、「デザイン経営」の強化を宣言。デザイン部門を経営の主流に据え、関連投資を拡大した。
06年春に発売した液晶テレビ「ボルドー」(生産終了)はワイングラスのような独特の形状が評価され、ブランド力向上に貢献した。今では世界各国に1000人ものデザイナーを抱え、競合他社を大きく上回る布陣を敷く。
LGもテレビや携帯電話などで優れたデザインを連発する。こちらも06年に「デザイン経営」を宣言し、ロンドンや東京など世界6都市にデザインセンターを置く。
「技術の差がなくなる中でデザインで差をつける狙いだった。場合によっては機能を削ってでもデザインを優先することもあった」。LGの日本デザイン研究所の許丁元(ホ・ジョンウォン)所長は戦略の徹底ぶりを明かす。
自動車業界でも06年、当時経営危機にあった起亜自動車が独アウディから著名デザイナーのペーター・シュライヤー氏をデザイン統括副社長として招き、急回復の原動力となった。99年に日産自動車のカルロス・ゴーン社長が、いすゞ自動車からデザイナーの中村史郎氏(現日産常務執行役員)を引き抜き、業績を好転させた例があるが、デザイナーが経営の要職に就くことは日本ではまだ少ない。
「日本は技術力にあぐらをかいていた」。電機大手幹部は自戒をこめてこう語る。ただ裏を返せば、デザイン力で日本製品は一段と進化できる可能性があるわけで、その戦略次第では逆転への展望も開けそうだ。