2011年7月23日土曜日

日本を代表する萌え文化が世界へ、スマートフォンとタッグを組んで生まれた萌家電

最初にこのニュースを知ったときには、なにかのネタなのかと半信半疑だったのですが、ソニーが会社のプロジェクトとして大々的に進行させている企画のようです。アンドロイドやスマホから簡単操作で家電の操作をできるという、前回の記事でご紹介したシステムと似ているのですが、家電を擬人化したキャラクターがところせましとスマホの画面内を縦横無尽に駆け巡るところです。今まで節電とかメンドイよと考えていたオタクさんも、萌えキャラからお願いされたら断れない?かもしれませんね。

ソニーCSL(コンピュータサイエンス研究所)と大和ハウス工業の共同プロジェクトが注目を集めている。Androidアプリを用い、スマートフォンからゲーム感覚で各種家電を制御するという試みは、家電をネットワーク化して利便性を高めるスマートハウスに“エンターテインメント”という一石を投じる提案といえる。7月8日と9日の両日、「D-TEC PLAZA」で行われた公開実験を見てきた。
ユニークなのは、テレビやBlu-ray Discレコーダー、エアコンといった家電製品を擬人化し、アニメのようなキャラクターを作り出したことだろう。彼らがスマートフォンの画面に現れ、個々の機器操作やアップデートを指南したり、ストーリー仕立てのイベントをクリアすることで機器間連携のノウハウを教えてくれたりもする。
家電をネットワーク化して便利に使うといった発想は昔からあった。エアコンはかなり古いモデルから標準的にHA端子を備えているし、今回の基盤技術になっている「エコーネット」が登場したのは1997年だ。しかし、家電製品への普及も期待されたエコーネットは、東芝のフェミニティシリーズ(現在は製品シリーズ名から転じて東芝のホームITシステムを指す)など、一部の採用事例があるだけで、現在も“鳴かず飛ばず”の状態が続いている。
わが家にも東芝製のエアコンが2台あり、専用ホームゲートウェイとBluetoothアダプターを導入すればPCなどからリモートコントロールが可能になるはずだ。しかし、専用ゲートウェイだけで10万円もすると聞けば一般家庭が導入するはずもなく、現状では付加価値とコストのバランスを欠いたシステムと言わざるを得ない。それでもエアコンの標準的な機能として採用し続けている点はすごいと思う。
大和ハウス工業の吉田博之氏は、過去10年に渡ってスマートハウスの研究開発を担当してきたという。エコーネットをベースに「住宅API」も開発したものの、世間の反応はいまひとつ。「スマートハウスは各社が取り組んでいるが、HEMS(home energy management system:省エネ管理)ばかりで、節電や環境のためという“個人の気持ち”頼み。やはりユーザーが“欲しい”と感じるものを作らなければいけない」(同氏)と指摘する。
1つのヒントが、2010年2月に行った「スマートハウス」実験にあった。ここでiPhone用のリモコンアプリを用いてエアコンなどの家電製品を操作してみせると、まずマスコミが注目した。もちろん人気のiPhoneを使ったことが大きな理由だが、従来のように高価な専用端末やハードルの高いPC用アプリでこうはいかなかっただろう。
一方、ホームネットワーク環境を考える上でもスマートフォンが登場した意義は大きい。なにしろ、高速なプロセッサと液晶画面を備え、無線LANやBluetoothによる通信が可能な使いやすい端末が、“すでに手元にある”状況を作ってくれた。さらに周囲を見てみれば、AV機器はネットワーク対応が当たり前となり、スマートフォンを無線リモコンにするアプリが人気を集めている。ソニーコンピュータサイエンス研究所の大和田茂氏は、「スマートフォンの発展はブレークスルーだ」と指摘する。もちろん、各家電の接続手段や橋渡しを行うゲートウェイ機器といった課題は残るものの、環境構築にかかるコストは大幅に抑えられる。
もう1つ重要なのは、「家電では、ユーザーの気持ちに訴える技術が大切。そこを掘り下げる必要がある」(大和田氏)。エンターテインメントの要素を持ち込むことで商品としての付加価値を高め、ユーザーの興味や物欲を喚起する。“欲しい”と思う人が増えれば生産量も増え、ひいては導入コストも下がるという考えだ。
そのためのツールが、同社が秋に公開するアプリ「萌家電」およびストーリーゲーム開発環境「Kadecot」(カデコ)。Kadecotでは、話者(キャラクター)を決めて発言内容をテキストで記述するだけで基本的なシナリオができる。もちろんキャラクター画像やアニメーションデータを用意する必要はあるが、「Photoshop」から直接出力できるエクスポーターを用意するほか、Photoshopを持たない人でもテキスト形式の設定ファイルを自分で記述できるという。Android向けのゲーム開発言語というとハードルが高く感じるかもしれないが、その画面を見る限り、個人でも容易に取り組めそう。
アプリのみならず開発環境まで公開するのは、「多くの人に参加してもらうことで、それまで思いつかなかった協調アイデアを集めることができるため」(大和田氏)。擬人化された家電というキャラクター達が展開するストーリーは、従来にないユーザーや開発者を獲得する可能性がある。彼らの創作意欲を刺激するためにも、「家電ネットワークは、“いじれる化”が重要」と指摘する。
また、発表以来、家電を擬人化した萌キャラばかりに注目が集まっているが、実はデモンストレーションの1つ1つにも明確な狙いがある(ないものもある)。例えば「扇風機ギャルゲーリモコン」。ユーザーと扇風機が遊園地でデートするというシチュエーションで、ユーザーが選択するアトラクションによって扇風機の風量が変わる。ジェットコースターに乗ると風が“強”になり、メリーゴーラウンドを選ぶと“弱”となる。「これは、言ってみれば非常に使いづらく、くだらないリモコンです。このくらだらなさによって、個人や開発者の創作欲を刺激することを意図しています」。
デモンストレーションはなかったが、「眼鏡は顔の一部」というシナリオもユニークだ。いたずら好きなブルーレイたちは、唯一の“めがねっ娘キャラ”であるフォトフレームのメガネを外してみようと画策。すると、メガネが外れたとたん、家中の照明が消灯してしまう。「世の中には知らなくてもよいことがあるのですよ」(時計)。教訓というより完全にネタだ。
一方、電化製品の使い方を分かりやすく教示するストーリーもある。「空調機たちの夏」は、扇風機とエアコンを併用する省エネのノウハウをさりげなく教えてくれるゲーム仕立てのイベントだ。クリアの条件は、扇風機とエアコンの電気代の合計が、あらかじめ設定した金額より小さくなること。達成するとメロドラマ風のアニメーションが展開され、なんと扇風機とエアコンが結婚してしまう。さらに、リモコンには扇風機とエアコンが協調動作する新しい動作モードのボタンが追加されるのだ。単に便利な機能をインストールするのではなく、どうしたら節電になるかという仕組みに関する“気づき”を与えることが目的という。
家電メーカーや関連サービス事業者が興味を持ちそうなストーリーも用意していた。例えば、家電のファームウェアアップデートがメーカーから提供されていると、キャラクターは具合が悪くなって病院へ行きたがる。ユーザーが許可すると病院へ行ってキャラは元気になり、ついでに新しいコスチュームをもらってきたりする。「ソフトウェアアップデートというと、これまでは面倒な作業というイメージでしたが、キャラクターが介在することでユーザーの心理的負担を下げられるのではないか。既存のメーカーサービスがどのように変化するかを検証したい」。
また、Blu-ray Discレコーダー(ブルーレイ)とウォークマンドックのかけあいでコンテンツ購入を勧めるシナリオもある。新作映画のトレーラー(予告編)をダウンロードしたブルーレイは、ユーザーに視聴を勧める。視聴すると、流れていた楽曲にブルーレイがいたく感動。ウォークマンドックが横から出てきて音楽配信サービスに映画のサントラがラインアップされていることを教えてくれる。「買って聞いてみない?」(ブルーレイ)。購入するとブルーレイの衣装が増えたりする特典もあるが、その気がなければ「いいえ」を選択すればいい。キャラクターを使うことで、あまり商売っ気を感じさせない(かもしれない)サービスが可能になる。
キャラクターのデザインやムダにも見えるストーリーには賛否両論があるだろう。しかし、今回はあくまでも実験であり、コンセプトの提示とシナリオの作例を示しただけ。その仕組み上、キャラクターやセリフはすべてカスタマイズが可能で、コンセプトとプラットフォームが市場に受け入れられれば、さまざまな趣味や嗜好(しこう)に合ったキャラクターが登場する可能性は高い。
ちなみに今回の公開実験にあたり、ソニーCSL内では複数のキャラクターを用意していたが、自信たっぷりで提出した“豚キャラ”が社内で「かわいくない」と一蹴(いっしゅう)され、注目度アップも期待できる萌キャラに決まったという。大和田氏によると、それでも発表後はTwitterを中心に一般ユーザーから多くの“ダメ出し”をもらっているという。「今回お見せする技術は、まだまだ研究レベル。きびしいフィードバックを頂き、次の開発に生かしていきたい。今なら“耐性”があるので、もっとご意見をください」と笑う。